いじめ自殺 親のそれから(前編)
大津市いじめ自殺問題の発生を受け、
私が以前アエラに寄稿したルポを緊急公開する。
あなたがこの問題を考える参考となれば幸いである。
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『いじめ自殺 親のそれから~8年かけて見えてきたこと』(前編)
出席停止に教員免許更新制。
福岡県筑前町の事件などをきっかけに、「対策」が積み上がる。
だが、いじめと向き合い続けた母が見た学校は……。
(AERA 2007年3月5日号。肩書、年齢などは当時)
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「優しくするということを、ぼくは下の人たちにしてあげて、その下の人たちがその下の人たちにしてくれたら、みんな幸せになると思います」
2月10日にNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」などが東京で開いた、いじめを考えるシンポジウム。福岡県筑前(ちくぜん)町から参加した森美加(もり・みか)さん(36)は、昨年10月にいじめを苦に自殺した町立中学2年の長男、啓祐(けいすけ)さん(当時13歳)が小学校の卒業文集に残した言葉を紹介した。
ジェントルハートは、いじめなどで子どもを亡くした親たちの会。子どもたちが遺したメッセージを伝えることで、優しさを広げていじめをなくそうと活動している。美加さんはこのシンポで初めて息子の名前と顔を公開して、話した。
シンポの3日前、美加さんは自宅から車で40分ほど離れた福岡県飯塚市に住む、古賀和子(こが・かずこ)さん(56)宅を訪ねた。手には、柔らかなピンクのチューリップが25本。和子さんの長男、洵作(しゅんさく)さんは、生きていれば1月に25歳の誕生日を迎えるはずだった。
【もう見たくない】
1998年のクリスマス。飯塚市の私立高校2年生だった洵作さん(当時16歳)は、同級生6人から「パーティーに女を連れて来られなければ60万円を払え」と執拗な脅しを受けて、自らの命を絶った。6人とその親は責任を認めず、学校は全校生徒に実施したいじめについてのアンケート原文を、遺族に見せる前に焼却した。
遺族は加害少年側と学校側を相手に、裁判に踏み切る。両者が責任を認めて遺族に謝罪し、和解したのは、2000年のことだ。
いま和子さんのもとに、美加さんが足しげく通う。
「色々と相談にのってもらって、心強い。私たちが頑張れるのは、8年前に和子さんたちが闘ってくれたおかげ」
和子さんは初め、美加さんに会うつもりはなかった。息子の死から8年。まだ、いじめ自殺は繰り返されるのか。ニュースに接すると、激しい怒りがこみあげて、「いじめ」の「い」の字すら見たくなくなる。いったいどこが、この責任をとるのか。
しかし、啓祐さんの自殺から2カ月後、ジェントルハートのメンバーを通じて偶然に、和子さんは美加さんに会った。
「変わらない」元凶がどこにあるのか、この8年間で、和子さんには少しずつ見えてきた。
「対症療法に終始して、子どもの苦しみに正面から向き合わん文部科学省のツケよ」
そう言い切る。
「おかしい」と最初に感じたのは、洵作さんの死から2年が過ぎた頃だった。当時の文部省による公立学校児童・生徒の自殺者数統計を見ると、いじめが原因とされる自殺の件数が、ゼロ。一方、原因が「その他」は106件で、全体の6割以上を占める。
「その他」の中身を明らかにして欲しいと、和子さんは02年、要望書を手に上京した。いきなり文部省を訪ねると、暗い廊下で対応した職員は和子さんの話を聞くだけ。要望書も受け取らなかった。3年通ったが、いつもたらい回しにされて終わった。
【誰がための175項目】
文科省が今年1月になって、99年度以降7年間ゼロとしていたいじめ自殺の数を修正したが、
「学校の先生だって、統計がおかしいことは知っとったはず。でも、指摘できんかったんやないか」
現場の教師は、声を上げにくくなっている。それがわかり始めたのは、事件後やめていた保険外交員の仕事を、06年4月に再開してからだ。顧客は、地元の学校の教師たち。彼らがいじめ対策でがんじがらめにされている姿を、目の当たりにした。
福岡県教育委員会から配られた「いじめ早期発見のチェック・リスト」は、児童・生徒と教師自らを見直すポイントが、合わせて8ページ、175項目にも及ぶ。
さらに文科省は昨年10月、学校と教育委員会に対し、44項目にわたるチェックポイントを通知した。
「たださえ忙しいのに、とてもこんなに一人づつチェックできん」
ある教師は和子さんに訴える。だが、不適格教員の烙印を押されかねないので、不満は言えない。
現に福岡県教委の詳細なリストは、筑前町の啓祐さんの中学では、使われていなかった。
「『これだけ配慮しました』という既成事実を作りたいだけ。このやり方では現場は萎縮するばかりよ」
政府の教育再生会議が1月の第一次報告に盛り込んだ教員免許の更新制についても、教師が上司の顔色をうかがって、ますますいじめを報告しなくなると危惧する。
<続く
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